隣人

時化

時の流れは、風が岩を削るように貴方を削るだろう、
その削りカスは何かをもたらすだろうけど、
それが何かっていうのは僕にはわからない。
幸福?お金?憎しみ?
わかるのは貴方がいつも一緒に居る人だけだ。

チック・ダグラス著 『メリーダグラス家の朝食』より

眠れない夜

カリカカリガリッ、ガリガリガリッ。
また聞こえる。神経を逆撫でする、何かを削るような音。止めたくても、聞きたくなくてもいやがおうにも耳にグリグリと入り込んで来る。
「ぁー、もう」
耐えられなくなって小さく漏らす。人が仕事から疲れて帰ってきて寝ようとしてるのに、いったい何なのだこの音は。発生元は既にわかってる。隣の部屋との壁から聞こえてきているのだ。
何の音なんだろう?聞こえ始めたのは1週間位前から、いつも夜遅い時間帯になると聞こえ始める。
何かを削ってる?壁に穴を開けてる?まさかね。まさかね。なんて自分で思っていながら、一度考えてしまうとその考えが頭から離れなくなって、眠れなくなってしまった。
「確か隣は大学生位の男の人だったなぁ…」
一週間耐え忍んできたものの、そろそろ限界に近い。心なしか音も日に日に大きくなってきている気がする。
よしっ、ちょっと文句の一つでも言いに行ってみようか。この辺のアクティブさは我ながら少し自慢できる所の一つではないかと思っている。時間は深夜1時を過ぎているが、迷惑しているのはこっちだ。止めてもらわねば。自分の部屋は一応何かあったときの為にすぐに逃げ込める様にしておこう。
パジャマをジャージに着替え。ダウンジャケットを羽織、いざとなりの部屋へ。私は202号室、問題の怪音の部屋は203号室になる。ちなみに201号室は大学1年生の男の子(最近服装が垢抜けてきた!彼女でもできたのだろうか)が住んでる。204号室は空き部屋だった筈だ。
さささっと、部屋を出て。隣の部屋の扉前に来たものの、さてどうしよう。とりあえずノックだな。といざ戸を叩こうをした瞬間、表札らしきものが目に入る。玄関の照明が切れてて良く見えない。しばらく待って、目を暗闇にならす。次第に読み取れる
「かみ、らく?かぐら?」
表札には
"神楽探偵事務所"
と書かれていた。
「は?探偵事務所?」
寒いし、引き返して寝ようかな。布団被ってさ。私はゆっくりと眠りたいだけなの。